高松高等裁判所 平成7年(ネ)271号 判決 1995年11月30日
控訴人(原告)
小田俊博
ほか三名
被控訴人
エスチイケイホンダ販売有限会社
ほか一名
主文
一 本件控訴を棄却する。
二 控訴費用は、控訴人らの負担とする。
事実及び理由
第一控訴の趣旨
一 原判決を次のとおり変更する。
二 被控訴人らは、連帯して次の各金員(原審請求を減縮)を支払え。
1 控訴人小田俊博に対し、金八〇六万四〇四四円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員
2 控訴人木村桂子に対し、金八〇六万四〇四四円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員
3 控訴人小田拓也に対し、金四〇三万二〇二二円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員
4 控訴人小田奈津子に対し、金四〇三万二〇二二円及びこれに対する平成五年一二月二四日から支払済みまで年五分の割合による金員
第二事実関係
原判決の「事実及び理由」欄二の記載のとおりであるから、これを引用する。ただし、三枚目裏四行目の「原告」を「被告谷」に改める。
第三当裁判所の判断
一 争点1(事故態様)及び争点2(過失相殺)について
これらの点についての当裁判所の認定判断は、原判決の「事実及び理由」欄三1・2の記載のとおりであるから、これらを引用する。
二 損害額について
1 逸失利益
(一) 控訴人らは、被害者が控訴人小田俊博の経営する有限会社小田商店の従業員として稼働していたと主張し、これに沿う甲三号証(給与所得源泉徴収票)を提出するけれども、本件事故は午後三時ころ発生したものであるところ、当日は金曜日であつたのに、乙七号証(控訴人小田俊博の警察官に対する供述調書の写し)中には、被害者の就労に関する供述記載が全くないことに照らし、たやすく甲三号証を採用することができず、他に右主張事実を認めるに足りる証拠はない。なお、本件全証拠によつても、本件事故当時七〇歳であつた被害者の就労の蓋然性を肯認するに足りない。
(二) 控訴人らは、被害者が家事労働に従事していたと主張する。前掲乙七号証及び甲一〇号証によれば、被害者は、昭和六二年に夫に先立たれ、本件事故当時、長男である控訴人小田俊博一家と同居していたものであり、昼間仕事で留守がちな控訴人小田俊博夫婦のために家事の手伝いをすることがあつたことを認めることができるが、被害者が同居家族のためにもつぱらあるいは主として家事労働に従事していたことを認めるに足りる証拠はないから、本件において、被害者の家事労働分としての逸失利益の損害の発生を肯定することはできない。
(三) 甲四、五号証及び前掲乙七号証によれば、被害者は、本件事故当時、年額六九万八二九八円の老齢厚生年金及び年額一二三万九六〇九円の遺族厚生年金の支給を受けていたことが認められる。
厚生年金法上の老齢厚生年金は、当該受給権者に対して損失補償ないし生活保障を与えることを目的とするものであるとともに、その者の収入に生計を依存している家族に対する関係においても、同一の機能を営むものと認められるから、他人の不法行為により死亡した者の得べかりし老齢厚生年金は、その逸失利益として相続人か相続によりこれを取得するものと解するのか相当である。これに対して、遺族厚生年金は、同年金受給者の死亡により更にその遺族が何らかの年金受給権を取得することは法律上予定されておらず、老齢厚生年金と比較して、一層社会保障的性格ないし一身専属性が強い上に、当該受給権者の死亡のみならずその婚姻によつて消滅するなど、その存続自体に不確実性が伴うことにも照らせば、逸失利益性を否定するのが相当である。
したがつて、被害者の逸失利益は、右の年額六九万八二九八円の老齢厚生年金を基礎として算定する。前掲乙七号証によれば、被害者は、本件事故当時健康であつたことが認められ、平成五年度簡易生命表によれば、七〇歳の女性の平均余命は一六・四年であるから、被害者は、本件事故に遭わなければ、少なくとも一六年間右年金を受給することができたものと推認される。そして、乙七号証によれば、被害者は、前記老齢厚生年金及び遺族厚生年金を受給していたほか、自宅近くに所有していた賃貸アパートからの賃料収入もあつたことが認められることや、前記認定のとおり、被害者が長男である控訴人小田俊博一家と同居していたことをも考慮すると、逸失利益算定にあたつては、生活費控除を行わないのが相当である。
そこで、右の年額六九万八二九八円の老齢厚生年金を基礎として、新ホフマン方式(係数一一・五三六三)により中間利息を控除して一六年間の逸失利益の本件事故時の現価を求めると、八〇五万五七七五円(一円未満切り捨て)となる。
2 慰謝料
以上認定の諸般の事情を考慮すれば、慰謝料は二〇〇〇万円が相当である。
3 葬儀費用
乙七号証及び弁論の全趣旨によれは、被害者の葬儀費用が必要であつたものと認められる。被控訴人らが賠償すべき葬儀費用は、一〇〇万円と認めるのが相当である。
4 過失相殺
前記一で引用する原判決の「事実及び理由」欄の三2のとおり、本件事故の発生については、被害者にも過失一五パーセントがあるから、前記1ないし3の損害計二九〇五万五七七五円から一五パーセントを減額すると、被控訴人らが賠償すべき損害額は、二四六九万七四〇八円(一円未満切り捨て)となる。
5 損害のてん補
控訴人らが損害のてん補として合計二四九八万四〇三〇円を受領したことは、当事者間に争いがない。そうすると、本件事故により生じた損害は、右金員によりすべててん補されているものといわざるを得ない。
三 結論
したがつて、控訴人らの本訴請求は理由がないから棄却すべきであるところ、これと異なり、右請求を一部認容した原判決は不当であるが、被控訴人らからの控訴及び附帯控訴がなされていない本件においては、原判決を控訴人らに不利益に変更することができない。
よつて、主文のとおり判決する。
(裁判官 渡邊貢 豊永多門 豊澤佳弘)